はるこの本棚

語彙力皆無マンで腐女が本を読みます。

オススメの歴史書と歴史小説

この間鎌倉文学館に行ってきました。原稿を見ました。川端康成は達筆ですね。夏目漱石は物理の先生の字みたいでした。直木三十五の字が小さすぎて可愛かったです。

何だかとっても最近TwitterのTLが騒がしいです。私のTLだけだと思います。何故かというと私はマニ車botだけではなく、数多くの歴史クラスタ(分野を問わず)をフォローしていて、その人たちが一斉にキレ散らかしているのです。

歴史小説について一揆を起こす事案があったようです。

史書歴史小説アルザス・ロレーヌ地方をめぐるフランスとドイツのごとく仲が悪いので暇さえあれば喧嘩しているようです。ただ、今回は勝手が違ったらしい。

 

史書は複雑で多面的な話をしなければならないため(Aという事件が起きた際、より公平さを期すため、Bサイドから見た話・Cサイドから見た話、D、E、F…、俯瞰的に見ようと試みた話、当時の社会情勢の話などを同時にしなければならないからです)、難解な言葉で書かれており、さらに、歴史書が書かれた当時流行した哲学や社会思想も知っておかないと理解できないものです。

20世紀で一番ヤバイすごいと言われている歴史家はフェルナン・ブローデルだそうですが(諸説あります)、彼の著書『地中海』は控えめに言ってヤバいと思います。スペインに君臨したフェリペ2世時代の話を書くだけなのに分厚いやつが5冊分もあります。

〈普及版〉 地中海 I 〔環境の役割〕 (〈普及版〉 地中海(全5分冊))

〈普及版〉 地中海 I 〔環境の役割〕 (〈普及版〉 地中海(全5分冊))

 

何故か。ブローデルは環境→人間→社会→政治とどんどん人の営みを掘り下げて書いていき、最終的にフェリペ2世が地中海でどうやって地中海の覇権を失っていったかを書いているのです。

もう一つ、こちらは中世イスラム最大の学者と呼ばれるイブン・ハルドゥーンが書いた歴史序説という本があります。

歴史序説 (1) (岩波文庫)

歴史序説 (1) (岩波文庫)

 

 こちらも「第一部・人間の文明の本質について」という一部の人以外は「ウゲッ、俺は単に中世イスラム史が知りたかっただけでうぁぁぁあ」となること必定です。

 ご存命中の方の著作で、ヤバイすごいのはこれですかね

 「世界システム論」というものを軸に書かれている歴史書です。批判もありますしいろいろとうーんとなるところもありますが基本的にすごいやばいです
なんといってもこれ分厚いの4冊分あるんですが、だいたい1500年代の大航海時代から現在まで、つまり500年ちょっとの歴史しか書いていないのに、4冊書いてもまだ終わらないところがヤバイです。ウォーラーステイン先生が亡くなるまでに「近代世界システム」は完結するのかどうか、もう結構なお歳なので寿命との戦いです。
私は2巻まで読んで頭を本の角にぶつけました

 

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)

 

 あとこれ。世界史と銘打っていますが感染症vs人類の歴史です
読んでいる最中、凶悪な感染症が出てくる夢を見ました

 

じゃあ日本史でヤバイ優れた歴史学者は?と言われると、網野善彦かな〜と思います。

無縁・公界・楽 増補 (平凡社ライブラリー)

無縁・公界・楽 増補 (平凡社ライブラリー)

 
海の国の中世 (平凡社ライブラリー)

海の国の中世 (平凡社ライブラリー)

 

ヤベ〜〜としかいえませんでした

メディアに露出する前の本郷和人先生の本はヤバみ凄みがありました。

新・中世王権論―武門の覇者の系譜 (人物選書)

新・中世王権論―武門の覇者の系譜 (人物選書)

 

ヤバみしか感じなかった本です。

戦いの日本史 武士の時代を読み直す (角川選書)

戦いの日本史 武士の時代を読み直す (角川選書)

 

これもなかなかヤバみがありますが、メディアに出るようになってから、方向転換して一般大衆にもわかるように、次第に明快でわかりやすい著述をめざすようになっているようです。

 

普段歴史学者ウォーラーステイン社会学者ですが)は、のほほんと史料の解読をしたり、考古学者と遺跡の発掘に勤しんだりしていますが、本気を出すと「俺の話を聞け」とトチ狂ってこうなったり、ああなったりして分厚い本でぶん殴ってくる生き物です。

文章作成+ストーリー作成のプロが歴史事象をストーリーに当てはめて書く歴史小説は、歴史事象の理解の一助となります。歴史小説は嘘をかいているのではなく、上記のイかれた小難しい歴史書群をストーリーに当てはめて書いているのです。

坂の上の雲 全8巻セット (新装版) (文春文庫)

坂の上の雲 全8巻セット (新装版) (文春文庫)

 

 すごい有名なやつです。日露戦争を一つは現場にいた軍人の視点から、もう一つは当時の文学的視点から描いたもので、「なるほど日露戦争ってチビの日本とでかいけどオンボロなロシアが戦ったのか」と綺麗に理解できます。また秋山真之という一海軍軍人の物語でもあります。ですが、そのために陸軍の、特に乃木希典やロシアの皆さんが悪役として犠牲になっていることを忘れてはいけません。ですが、日本海海戦をメインで書くこの本にとって、ロシアの皆さんと乃木希典の犠牲は仕方のないことでもあります。そう割り切れるのは、なにより話が面白いからです。

 

ハドリアヌス帝の回想

ハドリアヌス帝の回想

 

 同性愛者であるハドリアヌス帝の心理的側面を分析したものです。手紙形式でかかれてあり、宛先はハドリアヌス帝の寵愛を受けたとされるマルクス・アウレリウス帝です。
腐った女子は萌え死んでしまう本ですが、アエリウス・カエサルのケツの穴が犠牲になっていることを忘れてはいけません。ひょっとしたらマルクス帝のケツの穴も犠牲になっているかもしれません。でも読み応えがあり美しく悲しいです。

悪名残すとも

悪名残すとも

 

 陶晴賢という山口県あたりでハッスルしていた謀反人(言い方がひどい)の小説です。これはおもしろいぞ。ただユルスナールレベルではありませんが主人公が衆道を修めているため美少年との濡れ場があります。
腐った女子は萌え死んでしまう本ですが、大内義隆の善政と相良武任が犠牲になっていることを忘れてはいけません。でも面白いです。

平たく言えば、陶晴賢の後ろの貞操を気にするのが歴史小説と言えるでしょう。信憑性がアレとはいえ、史料に陶晴賢の後ろの貞操の件が載っている上、物語としても「愛する人間を殺す」という非常にいいものが作れるため、後ろの貞操の件が載っている史料の信憑性が薄いからといって、陶晴賢は掘られていたのかどうかを気にしない歴史小説は面白くないと思います。断言しよう。面白くない!!
逆に陶晴賢の後ろの貞操を気にしても仕方ないとするのが(ジェンダー史や性風俗史以外の)歴史書の態度です。むしろ、陶が謀反して今の山口県一体あたりや日本全体はどう変わったのか、陶が謀反した資金源はどこから来たのか、何故大内義隆はあっけなく死んだのか、冷泉隆豊が義隆に味方した背景とは?ということを考えます。そっちに主眼を置くため、陶晴賢大内義隆の熱くて甘い日々の事は「陰徳太平記」にこういうことがかいてありますよ、としか書きません。

 

ちなみに、ブローデルの師匠であるリュシアン・フェーヴルは「文献に基づき厳密に再現する歴史学」を嫌っています。史料といっても文字史料のみならず、絵画をはじめとした芸術作品を史料として積極的に取り入れ、さまざまな学問の視点を取り入れる必要があるんだとおっしゃっておられます。そういう歴史家もいます。
ちなみに「文献に基づき厳密に再現する歴史学」を確立したのはランケという学者です。
史料批判という手法もランケが確立しました。

宗教改革時代のドイツ史I (中公クラシックス)

宗教改革時代のドイツ史I (中公クラシックス)

 

これも書き手のやばさをかんじます。おすすめです

 

史料に基づかない歴史書は単なる空想なので論外ですし、嘘か嘘でないかも大切な事です。史料を利用して書いている以上嘘を書く/史料を利用したことを明記しないとそれを残した人たちに失礼にも当たります。
ここまで見てきてわかると思いますが、正直に言えば、歴史書歴史小説を、記者たちが取材してくるノンフィクションものと同等に捉える事はできません。
史料で歴史事象をできる限り忠実に再現してから、が問題です。ブローデルイブン・ハルドゥーンウォーラーステインがやりたい事は、史料のかけらを集めて人間社会の本質や文明の本質に迫る事です。ランケも同じです。逆に司馬遼太郎ユルスナールは「人間」そのものを描くために史料のかけらを集めています。その先なのです。

ちなみにブローデルはWW2の中、ドイツ軍に囚われて捕虜生活を送りました。その捕虜生活中、戦前に作成していた学習用ノートを凄まじい記憶力で思い返して先ほどの『地中海』の元となる博士論文の執筆を行なっていたと言います。その間に、ブローデルの友人であるマルク・ブロックはドイツ軍に銃殺刑にされました。

ユルスナールは同性愛者で、同じく同性愛者であるハドリアヌスを通じて同性愛というものを模索していました。司馬遼太郎の成長期には第二次世界大戦が影を落としていました。

それを考えたとき、私は、決して歴史の真実に迫るだの、歴史小説はフィクションではないなどという軽薄な言葉は口にできません。

 

……という攻撃的なことを書くと昨今の風潮ではpv数が上がってこのブログが読まれオススメの書籍が読まれると聞きました(*^◯^*)

みんな全部これ読んでくれ!!!とくに腐った人はハドリアヌス帝と悪名のこすとも読んでくれ!ちなみに網野善彦もオススメだぁ!北条時宗が!網野善彦vs本郷和人は見ていて面白い!!